Home DNA Report DNAイラクプロジェクト第1弾&第2弾結婚式ラッシュ (福岡孝浩)

結婚式ラッシュ (福岡孝浩)

結婚式ラッシュ 2003.3.6
 
2月13日にバグダッドに入ってほぼ3週間。昨年12月に訪れた時もそうだったが、街は一見すると、戦争が間近に迫っているとは思えないほど平穏な雰囲気を保っている。
そもそも到着早々驚いたのは、街のいたるところで繰り広げられる鳴り物入りのどんちゃん騒ぎだった。トランペットとドラムのコンビが、サンバのリズムを深夜まで響かせる。それにあわせて大勢の人々が踊り歌う(というより叫ぶ)。何が始まったのかと見ていると、中心にいるのはスーツとウェディングドレスを身にまとった新婚カップル。

新婚カップル

新婚カップル

どうやらイラクでは、結婚式は鳴り物入りで盛大に騒ぐものらしい。一瞬ここはラテン圏かと思うほど、人々は陽気で開けっぴろげだ。
ある結婚式をのぞいてみた。イラクでは新郎が新婦の家を訪ね、パーティを開いた後新婦を連れ帰る、というスタイルが一般的。この日新婦宅を訪ねた新郎は、在日イラク人のアリーさん(34)。市民グループの通訳として一時帰国し、7年間待たせた婚約者と急遽式を挙げた。なぜ今なのか、「日本に住んでいるので、この機会を逃すと結婚できないかもしれないと思った。これで彼女を日本に連れて帰れる」とほっとした表情。
実はこの時期に結婚式が多いのには理由がある。3月4日からイスラム歴の禁忌月(日本の仏滅みたいなもの)が始まる。だからその前に駆け込み結婚が増えるのだ。だが今回はそれだけではない。口に出しては言わないが、やはり迫りつつある戦争を意識している。そう思って見ると、脳天気などんちゃん騒ぎも、不安を紛らすためのもののように見えてくる。
とはいうものの、市民たちは日々の暮らしを営々と続けている。市内北部のナフダ地区に行くと、エンジン修理や工作機器製造業者が密集していて、さながら町工場マーケットの様相を呈している。旋盤の音や溶接の火花がかまびすしい。
そのはずれにまるで粗大ゴミ置き場のような一角がある。廃品市場だ。休日の金曜には大勢の客でにぎわうが、売っているモノがすごい。モーターやボルトなどは分かるが、片方だけの靴や元が何だったのかすら分からない部品、ドラム缶をつぶした鉄板やただの針金までが売り買いされている。
国連制裁で輸入が制限され、物不足は慢性的だ。そこで徹底したリサイクル社会が必然的に生まれた。
それだけではない。町工場マーケットにある鋳物屋では、ポンプ部品を作っている。以前は輸入できたが、今は修理しようにも部品がない。だから工夫して部品を作るようになった。

ナハダの廃品バザール

ナハダの廃品バザール

鋳物屋のオヤジは「制裁でモノ不足なのは事実。でも逆にオレたちは必要に迫られてモノづくりを覚えた。この技術は制裁のおかげだね」と皮肉たっぷりに制裁の効用を説く。制裁下だろうが戦争が迫ろうが、市民たちはその中で精一杯普通の生活を続けているのだ。
だがもちろん不安はある。ここ数日、街角には土嚢のトーチカが作られ、武装した兵士や民兵の姿も目立ち始めた。
アメリカの攻撃が近いことを市民たちはどう受け止めているのか、話を聞くと、あるイラク人はこう聞き返した。「アメリカはいつ戦争を始めるんだ?知っていたら教えてくれ」不安は徐々にふくらみつつある。 (福岡孝浩)
 
 
【 ← page prev 】



Copyright© DNA Documentary & Nonfiction Activation All Rights Reserved.